こんにちは、カシカの奥です。

先日、ロサンゼルスで開催された SIGGRAPH 2026(2026年7月19日〜23日)に参加してきました。コンピュータグラフィックスの世界最大の学会です。私が前回参加したのは2019年なので、7年ぶり ということになります。

その間に生成AIが世界を一度ひっくり返しました。「あれから、CGの世界はどうなったのか」——それをこの目で確かめに行った、というのが今回の動機です。

結論から言うと、いちばん印象に残ったのは派手な新技術ではありませんでした。CGが「デジタルの中で完結する」ことをやめて、「現実」の方へ還ってきている——そういう空気の変化です。


まず、街がロボットだらけでした

会場の話をする前に、街の話をさせてください。

久しぶりのロサンゼルスで、いちばん驚いたのは ロボットの多さ でした。

夜、会場前の交差点を 無人の自動運転タクシーが何台も静かに走っていきます。もう珍しい光景ではなく、普通に交通の流れの一部になっていました。

夜のダウンタウンLAの交差点を走る自動運転車

歩道では 配達ロボット が荷物を運んでいました。丸い2つの光る目で人をよけながら進んでいきます。天板のディスプレイには人の名前が表示されていて、最初は機体の名前かと思ったのですが、おそらく届け先の方のお名前ですね。

ダウンタウンLAの歩道を走る配達ロボット

面白かったのは、街の変わり方が ちぐはぐ だったことです。コロナ禍で閉じた店の跡地はそのまま空いていて、街並み自体はむしろ少し荒れて見える。運転のマナーも以前より荒くなった気がする。物理的な街のほうは後退しているのに、その上を走るロボットとアプリの体験だけが、国境を越えて滑らかになっている。

この「現実の側にテクノロジーが降りてきている」感覚は、そのまま会場の中の空気とつながっていました。


会場は Physical AI 一色

SIGGRAPH というと、映画やゲームの映像表現の学会というイメージが強いかと思います。実際、以前はそうでした。

ところが今年、会場で圧倒的に存在感があったのは Physical AI(フィジカルAI) でした。ロボットや自動運転など、現実世界で動くもののためのAI です。そして、そのために現実を丸ごとデータ化しシミュレーションする技術——デジタルツインワールドモデル が主役になっていました。

数年前まで、CGの世界には「デジタル空間で完結しているほど高度」という空気がありました。フィジカルなものを動かす展示は「CG学会なのにCGじゃない」と見られていた面すらあります。今年は、それが明確に逆転していました。

ワールドモデルが「机の上」に降りてきた

象徴的だったのは、世界を丸ごと生成する ワールドモデル が、大型のスパコンではなくデスクトップPCで動くようになっていたことです。

NVIDIA のキーノートで公開された Cosmos 3 は、Edge(40億パラメータ)/Nano(160億)/Super(640億) という3つのサイズで提供されます。いちばん小さい Edge は、エッジ機器やコンシューマ向けGPUでもリアルタイムに動かすことを狙ったモデルです。

デモでは、実行環境が「数百台のGPU」→「十数台の次世代GPU」→「ワークステーション1台」と縮んでいった経緯が語られ、その場の操作はなんと ゲームパッド で行われていました。研究室の奥にあったものが、机の上に降りてきた。この一点だけでも、今年の変化は本物だと感じます。

ロボットは会場の中にもいました

Real-Time Live!(リアルタイム技術のライブデモ企画)では、ディズニーの研究部門が 『アナと雪の女王』のオラフ型ロボット を実演していました。歩行動作は強化学習でシミュレーション内から獲得したもので、面白いのは 首のアクチュエータの発熱までシミュレーションに含めている こと。「シミュレーションの中で(熱で)溶けないように学習させた」という説明には、会場も湧いていました。

同じ Real-Time Live! では、観客がその場でスマホからプロンプトを送り、数十秒で生成された3Dアセットをゲーム内に配置してレースする というデモが最高賞(Best in Show)を獲得しています。「6分前、これはただの箱の山だった。それが今はゲームになっている」という発表者のセリフが印象に残りました。


「現実を測る」側の技術が厚くなっていた

もうひとつ、はっきり感じたのは 現実を正確にデータ化する技術 の層が厚くなっていたことです。

シミュレーション結果を「圧縮」するAI

個人的にいちばん驚いたのは、NVIDIA の AI Physics の発表でした。

約2,000機分の航空機まわりの流体シミュレーション(10億自由度超)を学習させると、元データ 約200TB が、学習済みモデルでは約200MB になる。約100万分の1です。しかも未知の形状・条件に対して、1〜2%程度の精度で、控えめなGPU(RTX 6000クラス)1枚で1秒以内に予測できる、と。

これは「AIだからすごい」という話ではなくて、計算結果の中に圧縮できる構造(=物理法則)があるからこそ成立する という話です。弊社が大学と取り組んでいるサロゲートモデル(重い計算を軽いモデルで置き換える手法)の考え方と、まさに同じ方向を向いています。

3D Gaussian Splatting は「見た目」から「現実の再構成」へ

写真から高品質な3D空間を再構成する 3D Gaussian Splatting(3DGS) も、今年は位置づけが変わっていました。「きれいな見た目のため」ではなく 「シミュレーションのために現実を再構成する」技術 として語られていたのです。

NVIDIA の講座では、航空写真1,850枚から7平方kmの都市規模を、10億個を超えるGaussianで再構成する 事例が示されました(従来の最高水準の25倍超の規模)。

座標系(CRS)という地味だけど致命的な話

地理空間まわりのセッションで繰り返し出てきたのが 座標参照系(CRS) の話でした。合言葉は「座標系は後付けではなく、最初からネイティブに持て」。

ドローンで取得した3Dデータは「楕円体高」、地図側は「標高(海面基準)」で扱われます。座標系が正しく埋め込まれていないと、3Dデータが地面から浮いたり沈んだりする。ちなみに日本ではこの差(ジオイド高)が おおむね30〜45m あります。デモでは気づかないのに、本番の判断で効いてくる——という、実務者としては非常に身につまされるテーマでした。

デジタルツインは「AIが来た今こそ」

初日のデジタルツインのワークショップでは、気象予測をAIで数秒〜数分に短縮する NVIDIA Earth-2 や、データセンターそのものを丸ごと仮想空間に写し取った オークリッジ国立研究所の ExaDigiT などが紹介されました。登壇者たちは口を揃えて「デジタルツインは前からあるテーマだが、AIが来た今だからこそ本当に生きてくる」と話していました。


制作現場のAI活用:数字と限界が、そのまま共有されていた

今年の特徴として、AI活用の「生の数字」と「限界」が編集されずに共有されていた ことも挙げておきたいです。

カザフスタン発のAIアニメスタジオが発表した短編は、12名・約20万ドル・2〜2.5週間 で完成したとのこと。同規模の作品を従来型で作れば50名・100〜200万ドル・1〜1.5年、というのが同じスライドに並べられていました。

ただし、そのスタジオの担当者ははっきりこう言っていました。「プロンプト一本で15分の映画を作る、というのは試した結果、完全に破綻した」。実際の制作では、手描きのペイントオーバーを前段に厚く挟むハイブリッドな作り方をしています。

別のセッション(”The Last 20%” と題された議論の場)でも、共通認識はこうでした。「生成AIで90%作れても、納品できる状態にする最後の20%は、結局は地道な作業。AIが代わりにやってはくれない」。

NVIDIA が今秋出荷予定と発表した DLSS 5 も、レンダリング結果の後段に生成AIを重ねて質感を足す技術ですが、設計上の最大の課題として掲げられていたのは 「アーティストの意図をどう保持するか」 でした。「傷跡は、より良い肌の陰影を得てもよい。だが決して消えてはならない」という表現が使われていたのが象徴的です。


「作れるか」より「正しいと言えるか」

そして、会場のあちこちで繰り返されていた問いがあります。

それは 「AIで作れるようになった。では、それが正しいとどう言うのか」 という問いでした。

あるエンジニアは、こう言い切っていました。

「『どうなってる? わからない、AIがやった』——それはエンジニアリングじゃない」

Stanford の研究チームが発表した MoVer という手法は、AIが作ったモーショングラフィックスが指示どおりかを 論理式で自動検証し、外れた点をAIに戻して直させる というものです。無修正では指示を満たせたのが 58.8% だったのに対し、検証と修正を繰り返すと 93.6% まで上がった(5,600件のプロンプトで評価)。生成だけでなく、検証までを設計に含める という発想です。

標準化団体の方は「AIは理解を肩代わりするものじゃない。判断が要るところに時間を使うための道具だ」と話していました。学術ワークショップのひとつは、テーマそのものが「信頼性(reliability)」——物理的な妥当性、不確実性の較正、失敗モードの明示、ブラックボックスにしない検証インターフェース——でした。

最終日の「ワールドモデル」をめぐる討論では、第一線の研究者がこう正直に語ったのが印象的でした。

「ワールドモデルとは何か。正直な答えは、”実は、わからない。誰もわかっていない“」

華々しい発表の一方で、実際に使った開発者からは「見た目はいい。でも視点を少し外すと崩れる。床や壁が平らだということすら理解していない」という生々しい報告も出ていました。“発表されていること” と “本当にできていること” は、まだ違う。 それを当事者同士が率直に語り合える場は、むしろ健全に見えました。

作れることより、正しいと言えること。生成が安くなればなるほど、価値はそちらへ移っていく——今年のSIGGRAPHは、その一点で静かに揃っていたように思います。これは弊社が「可視化」という仕事で日々向き合っているテーマそのものでもあります。


おわりに

7年ぶりに参加して確かに感じたのは、コンピュータグラフィックスが「絵を美しく作る技術」から、「現実を測り、正しく写し取り、それが正しいと言い張れるようにする技術」 へと重心を移しつつある、ということでした。

なお、今回持ち帰った内容は、ここに書ききれるものではありません。各セッションのより詳しい中身、各社の技術の比較、標準化の動向、そして「どこまでが実現していて、どこからがまだ先の話なのか」といった、この場では書きにくい話 もたくさんあります。

「うちの領域だとどう効いてくるのか知りたい」「もう少し詳しい話を聞きたい」という方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。個別にお話しさせていただきます。

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株式会社カシカ 奥 健太郎